夏の名残を惜しむかのように、4月になっても日中はまぶしいほどの快晴の日が続いていますが、さすがに朝晩の訪れは早くなりました。そしてついに4月の第1日曜日の朝、6カ月続いたデーライト・セービング(夏時間)が終わり、ニュージーランド全土の時計がきっちり1時間戻されました。これからの半年間は日本との時差は3時間となります。(10月から3月までの夏の間は4時間、日本より早い)
そのデーライト・セービングが終わった週末、私の住むフィティアンガの町では今年初めての大規模な空、海、陸のスピード祭りが催されました。現在、地元で大々的に行われている人工運河の造成とその分譲、そしてフィティアンガの町の未来都市計画を手掛けている開発業者が出資して行いました。町の商店主や陸、海、空の地元クラブの協力を得て、美しい海岸と条件の良い滑走路を持つフィティアンガ空港、車のレース場を使っての大祭典となりました。
その週末、フィティアンガ空港の滑走路にはニュージーランド空軍のアクロバット機と飛行チーム、ロシアの戦闘機とそのアクロバット飛行チーム、16人乗りの水陸両用機、大型レスキューヘリコプター、その他たくさんの小型飛行機が北島のあちこちから集まり、町の海岸には各種のスピードボート、ピカピカに磨かれたクラシックカーなどが勢ぞろいしました。
幸いその土曜日の朝も素晴らしい快晴で、祭りのオープニングは朝8時のアクロバット飛行でスタートしました。その日、うっかり寝坊していた私は町の上空で回転する飛行機のエンジン音のうなりで目を覚ましました。2日間のプログラムはそのアクロバット飛行でスタートし、引き続いて各種航空ショー、レース場では車のスピードレース、海ではスピードボートレース、町では飛行機顔負けにエンジン音を鳴り響かせたハーレー・ダビッドソンなどの大型オートバイクと優雅なクラシックカーの行進と続きました。
愉快だったのはその日の締めくくりに町の商店主が全員、女装して町の目抜き通りを走り抜けるという競技でした。いつもはまじめな商店主が色とりどりのかつらをかぶり、太めのお腹にドレスをきて、セクシーなお化粧を施した様はユーモアたっぷり。沿道の人々は、ハイヒールを履いて走る姿に、やいやの喝采(かっさい)を送っていました。
2日目の日曜日も天気は上々、競技は引き続き海に空に陸にと繰り広げられました。幸運なことに私はその朝、ニュージーランドの空軍のアクロバットチームの一人に話を聞くことができました。彼は実はアメリカ人で去年、ニュージーランド空軍に移ってきたそうです。
「国で出会ったニュージーランドの軍人がみんないいやつだったんで、こっちの国の空軍に移ることにしたんだ。電話2本であっさりと受け入れてくれたんだけど、その気楽さにはたまげたよ。最初はニュージーランドがどんな国かも知らなかった。ハワイみたいに南国だと思っていた。最初に着いたのが6月で、冬だったので寒くて驚いたよ。でも住んでみたらいい国だ。とても気に入ったよ。このアクロバット飛行だって、アメリカじゃ今ではこういう飛行機ではやらない。ジェット機でやるのでアクロバット飛行には広いスペースが必要なんだ。でもニュージーランドではまだこうした小型の飛行機を使ってやれるからアクロバット飛行も狭い空間で、地上すれすれのところで飛ぶ。かなり度胸がいるけどやった後は気分爽快(そうかい)さ。見物するほうだって醍醐味(だいごみ)が違うと思う」。こう話していました。
その1時間後、町を望む海岸でスピードボートのレースに向けて、見物客が集まり始めると、レースの前座としてニュージーランド空軍によるアクロバット飛行があるというアナウンスが響きました。まもなくきらきらひかる海の上に大きく広がる青空の中に、黄色い機体に赤いチェック入った5機が連隊を組んで現れ、見物客のまさに真上で素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。あのアメリカ人パイロットもきっと満足の笑みを浮かべていたことでしょう。
そして今回の祭りの最後に、私は「スポーツクルーザー」という軽飛行機を試乗するチャンスに恵まれました。これはアメリカ製の2人乗りの軽飛行機で、軽くて速くて、経済性が高いというものです。これに乗ってつい数時間前に空軍機がアクロバットをした海岸の上空を飛んでみました。乗せてくれたパイロットは飛行中に「上空でプロペラがストップした場合はどうなるか」とか「急旋回するとどうなるか」など、内心ひやっとするような技を私に見せてくれましたが、乗り心地は満点でした。ちなみにこの飛行機の登録ナンバーは「SXY」で通称セクシーと呼ばれているそうです。
こうして2日間にわたる陸海空の醍醐味、秋の祭典は4月の夕暮れの中で幕を閉じました。(フィティアンガ在住)
【写真説明】1)アクロバット飛行の出発準備をする空軍パイロットと、地元航空クラブの会員
2)夕暮れの中であったクラシックカーの行進
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